車谷長吉は、芥川賞を受賞するだろうと誰もが思っていた。しかし直木賞候補となり、受賞した。同時期の芥川賞受賞作家は、大衆文学を手掛けて来た花村萬月だった。これは衝撃だったので、よく憶えている。文学雑誌も買ったし対談にも目を通した。もちろん受賞作は読んだ。どうしてこのふたりは入れ替わるように作品とは違う性質を持った文学賞を受賞することになったのか。

浮き足立っていた時代にふさわしく、安易な「純文学と大衆文学の融合」を狙ってのことで、その象徴的な出来事のように見えた。どちらも黙って受賞し、私はこの謎が解けない儘であった。

直木賞でよかったのかもしれない。