戦前の外交官はエリートだった。戦後のように、勉強さえ出来れば家柄や財産に関係なく、なれるというものではない。

祖母の兄は戦前からの外交官であった。祖父母は国の命で半島に出向いていたが、兄から連絡を受け、終戦前に自分たちで船を用意し、帰国した。祖父母一家ともう一組の一家でお金を出し合い、人を雇っての帰国だが、曾祖母の遺産がすべてこの船で吹き飛んだという。2組の素封家が自前で生きる道を用意するのは『アンネの日記』と同じである。

戦争になると貧乏人が死ぬというのは本当だ。私の一族も、婚家一族も、ひとりを除き戦争に行った者は誰もいない。そのひとりも軍医である。兵卒ではない。前線に回されるのは農家の次男以下が多いと何かで読んだ。戦争で苦しむのは一般庶民である。「国家一丸となって」というのは、嘘ではないか。戦争はしてはならない。

同胞を見捨てて帰国したのだなと理解した私は、子供の頃から長く、これを誰にも語らなかった。