「牛河は虫になったザムザのように…」そしてそこにはグレーゴルでもグレゴールでもどちらでもいいが(だってどちらも間違いじゃないのだ)とにかくザムザについての説明も、変身という作品についての説明も、カフカだよ〜んという一言も、何もなくポンと置かれている。こんな使われ方をした小説の登場人物は、貫一&お宮のペアしか思いつかない。それはエッセイだったかもしれない。エッセイなら有り得る。
 ああ、こうやってついて来れない読者は振り落すのだな、振り落すというよりは、「分からなくても楽しめる」重層的な構造の小説だ。皆が掃いて捨てるほど言ったことだけれど。
 (日本でもっとも読まれていると思われる)葉蔵ですら、こんな使われ方はまずしないだろう。前作に『海辺のカフカ』がある為か、ワールドワイドな作家であるためか。どちらもyesだろう。『説明しなければ分からないことは説明しても分からない』(原文ママではない。記憶のままである)のである。ああ、しかし今目に留まったのだ。そして些か驚いた。前も同じことで驚いたような気がしないでもないけれど。w 私はよくそうやって新鮮に、同じ経験を何度か愉しむ。